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横浜地方裁判所 昭和60年(ワ)2873号 判決 1988年6月30日

原告

宮下真人

被告

鈴木勝久

ほか二名

主文

被告鈴木勝久、同有限会社双美興業は、各自、原告に対し二一三万九三〇一円及びこれに対する昭和六〇年四月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告鈴木文夫に対する請求、被告鈴木勝久、同有限会社双美興業に対するその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告と被告鈴木文夫との間に生じた分は原告の負担とし、原告と被告鈴木勝久、同有限会社双美興業との間に生じた分はこれを三分し、その一を原告、その余を右被告等の負担とする。

この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告等は、各自、原告に対し、三二四万八〇二〇円及びこれに対する昭和六〇年四月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告等の負担とする。

仮執行宣言の申立て

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

発生日時 昭和六〇年四月二七日午後七時三五分

発生場所 横浜市緑区八朔町二二四番地先路上

加害車両 普通乗用自動車(横浜ふ一五七七号)

運転者 被告鈴木勝久

被害車両 普通乗用自動車(横浜五三な九八二一号)

運転者 原告

事故態様 被害車両が、折りから信号待ちのため先行の二車両に続き停車していたところ、加害車両が被害車両の後部に追突し、被害車両がその前で信号待ちのため停車していた他車二両に追突した。

結果 本件事故により原告は受傷し、被害車両は破損した。

2  原告の受けた傷害、治療経過、後遺症

原告は、本件事故により、頭部打撲、外傷性頸部症候群、頸椎捻挫の傷害を受け、横浜旭中央総合病院、あざみ野整形外科、警友総合病院で治療を受け、昭和六一年六月九日、頸頂部に圧痛を残したまま症状が固定した。

3  責任原因

(一) 被告鈴木勝久

被告鈴木勝久は、加害車両を運転するに当つて、前方注意義務を怠つて運転した過失があり、民法第七〇九条に基づき本件事故により発生した損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告会社

被告会社は、浄化槽等の業務及び建築物環境衛生管理業務を目的とする会社で、被告鈴木勝久の使用者であるところ、本件事故は、同被告が被告会社の事業の執行につき発生させたものであるから、民法第七一五条一項に基づき本件事故により発生した損害を賠償すべき責任がある。

(三) 被告鈴木文夫

被告鈴木文夫は、個人会社である被告会社の代表者であつて、従業員の選任監督を含め、同社の事業全般につき同社に代わつて監督するものであるから、民法第七一五条二項に基づき本件事故により発生した損害を賠償すべき責任がある。

4  損害

(一) 人的損害

(1) 治療費 九万五五二〇円

治療関係費用は、殆ど自賠責保険金により填補されたが、自己負担分として次の金員を支出した。

横浜旭中央総合病院支払分 三〇六〇円

あざみの整形外科支払分 四〇〇〇円

警友総合病院支払分 八万八四六〇円

(2) 慰謝料

ア 傷害慰謝料 七七万円

原告は、本件事故により加療一年以上を要する頸部捻挫等の傷害を受け、頸部の後方及び右方屈折時に生ずる右側頸部疼痛の為、自己の職業である県立高校体育科教員としての職務遂行上の不便、不都合、及び危惧、不安に悩まされたが、被告側からかつて一度も見舞いの言葉すらなかつたばかりか、却つて皮肉の放言を受け精神的苦痛を受けた。原告の右精神的苦痛を慰謝するには、七七万円の支払をもつてするのが相当である。

イ 後遺症慰謝料 七四万円

原告は、頸頂部に圧痛を残したまま症状が固定したが、この症状は、もはや治療によつては根治が困難なもので、対症療法によつて一時的に苦痛を軽減させる等以外に方法がないものであり、原告は、現に警友病院に通院し、施薬を続けている。

このような後遺症状を今後とも長く持ち続けねばならない苦痛、苦痛軽減のための対症療法を継続しなければならない苦痛、このため、高校体育科教員として実技指導上の就労能力に低下を来すことによる苦痛等の精神的苦痛を慰謝するには、七四万円の支払をもつてするのが相当である。

(二) 物的損害

(1) 車両損害 一三〇万九九四六円

被告車両は、原告が、昭和五九年一一月九日、株式会社ホンダベルノ横浜(以下「ホンダベルノ横浜」という。)から、車両本体価格一六五万三三一〇円(定価一七六万二〇〇〇円、特別値引き一〇万八六九〇円)、付属品価格二万〇四〇〇円(フロアカーペツト一万六〇〇〇円、リヤマツトカード三七〇〇円、タラチラツプペイント七〇〇円)、特別仕様価格六万〇五八〇円で購入したものであるが、本件事故により、車体の本質的部分(フレーム)に重大な損傷を来し、例え多額の費用を費やして修繕・再生したとしても、元どおりの機能を回復することができず、時に蛇行走行の危険の恐れがあり、原告は買い替えの止むなきに至つた。

ところで、ホンダベルノ横浜店における一般的中古車引き取り価格の計算は、新車の車両本体価格に基本減価率〇・八を乗じた金額から一ケ月につき七万五〇〇〇円の割合の減価額を減じた金額に付属品価格、特別仕様品代を加算する方法でなされており、これに販売利益率、最低一〇パーセントを加算した価格が中古車市場において中古車を取得するに要する金額である。

原告は、被害車両を一七〇日(約五ケ月)使用しており、且つ、付属品等の減価償却率を年一六・六パーセント(減価償却資産の法定耐用年数による自家用普通乗用自動車の耐用年数六年に対応する定額法の償却率)とし、残存価格一〇パーセント控除後の金額に使用日数分の減価をすると、被害車両と同等の中古車を取得するには次のとおり一三〇万九九四六円を要する。

〔176万2000円×0.8-(7万5000円×5)〕+〔(2万0400円+6万0580円)-(2万0400円+6万0580円)×(1-0.1)×0.166×170/365〕=110万9946円

110万9946円+販売利益20万円=130万9946円

(2) 被害車両取得に要した諸費用の損害 九万七九六〇円

原告は、被害車両を取得するため、合計一〇万六二〇〇円の費用(自動車取得税七万九三〇〇円、登録届出費用一万九〇〇〇円、納車費用七〇〇〇円)を支出した。

右諸費用のうち、被害車両の法定耐用年数を六年とし、そのうち使用した一七〇日に相当する金額を控除すると、次のとおり、九万七九六〇円が本件事故により無駄になつた。

10万6200円-10万3000円×170/〔365×6+1(閏年分)〕=9万7960円

(3) 事故処理に要した費用 五万七〇〇〇円

ア レツカー代 一万五〇〇〇円

原告は、被害車両処理をホンダベルノ横浜十日市場店に依頼し、レツカー代として一万五〇〇〇円を支払つた。

イ 保管料 一万二〇〇〇円

原告は、被害車両の保管を同店に依頼し、保管料として一万二〇〇〇円を支払つた。

ウ 修理見積費 三万円

原告は、被害車両の修理見積を同店に依頼し、その費用として三万円を支払つた。

(4) 買替え車両の新規登録届出費用等 一二万五〇〇〇円

原告は、ホンダベルノ横浜旭店で被害車両と同種の車両を購入し、その取得税として八万八〇〇〇円、登録届出費用として一万九〇〇〇円、被害車両下取り諸費用として一万二五〇〇円、合計一二万五〇〇〇円を支払つた。

(三) 弁護士費用 三〇万円

原告は、本訴の提起、追行を原告訴訟代理人に依頼したが、その費用としては、三〇万円が相当である。

5  結論

よつて、原告は、被告等に対し、各自右損害のうち三二四万八〇二〇円及びこれに対する本件事故発生の日の翌日である昭和六〇年四月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  1項の事実は認める。

2  2項の事実は知らない。

3  3項(一)、(二)の各事実及び被告鈴木勝久、被告会社に責任があることは認め、同項(三)の事実は争う。

4  4項の各事実について

(一)(1) (一)の(1)の事実は争う。原告は、昭和六〇年五月一日よりあざみ野整形外科で治療を受けたが、同年六月二七日には症状軽減し、治療が中止されており、後遺障害無しとされている。従つて、原告が請求している治療費は、本件事故と因果関係がない。

(2) 同(2)の事実は争う。原告は、後遺症分の損害を請求するが、原告には後遺症はなく、仮に頸頂部に圧痛が存したとしても、損害賠償論の見地より、被告に対して請求し得る損害が存するとは到底考えられない。

(二)(1) (二)の(1)、(2)、(4)の各事実は争う。被害車両は本質的構造部分に損傷はなく、修理が可能で、廃車、買い替えの必要もなかつた。また、修理により従前の機能は十分回復することができたから、評価損も発生しない。右修理に要する費用は八五万四九四〇円であるから、右金員をもつて原告の車両関係の損害とすべきである。

(2) 同(3)の事実は知らない。

(三) (三)の事実は知らない。

第三証拠

証拠の関係は、本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  請求原因1項の事実(事故の発生)は当事者間に争いがない。

二  原告の受けた傷害、治療経過、後遺症

成立に争いのない甲第一三ないし第二二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める乙第一〇、第一一号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第二三号証、同尋問結果によると、次の事実が認められる。

1  昭和六〇年四月二七日(事故当日)横浜旭中央総合病院で受診

病名 頭部打撲

治療 同年五月二三日、同年六月四日に通院、投薬治療を受ける。

2  昭和六〇年五月一日から同年六月二七日まで(実日数一六日)あざみ野整形外科に通院し、治療を受ける。

病名 頸部捻挫、外傷性頸部症候群

症状 頸椎運動性良好、ジヤクソンテスト陰性、両側僧帽筋圧痛あり

治療 五月七日から理学療法、六月一八日からパントクリン注射開始、昭和六〇年六月二七日病状軽減し、治療中止

3  昭和六〇年一〇月二一日から昭和六一年六月九日まで(実日数七日)警友総合病院に通院し、治療を受ける。

病名 頸椎捻挫

4  昭和六一年六月九日警友総合病院で症状固定の診断

症状 自覚症状 頸部の疼痛

他覚症状 頸頂部の圧痛

5  原告は、その後も警友総合病院に月に一度ぐらい通院し、投薬を受け、父親がスポーツトレーナー一級の資格を有しているので週に二ないし三回風呂上がりにマツサージをしてもらい、母親から週に一ないし二回灸をしてもらつているが、なお4項の症状が残つている。

以上のとおり認められ、右事実によると、原告は、本件事故により、頸椎捻挫の傷害を受け、昭和六一年六月九日に症状が固定したが、なお後遺症として、頸部に疼痛、頸頂部に圧痛が残つたことが認められる。

三  責任原因

請求原因3項一、二の各事実(被告鈴木勝久、被告会社の責任原因事実)、同原告等に本件事故により発生した損害を賠償すべき責任があることは当事者間に争いがない。

原告は、被告鈴木文夫にも責任がある旨主張し、弁論の全趣旨によると、同被告が被告会社の代表取締役であることが認められないではない。

しかし、一件記録によつても、被告鈴木文夫が被告会社の中で被用者を現実に選任監督する立場にあつたことを認めるに足る証拠はなく、原告の主張は認められない。

四  原告が受けた損害

1  人的損害

(一)  治療費

前掲甲第一六ないし第二一号証、原告本人尋問の結果によると、原告は、治療費の自己負担分として、横浜旭中央総合病院に対し、昭和六〇年五月二三日に三〇六〇円、同年六月四日に一五〇〇円を支払い、あざみ野整形外科に対し、昭和六〇年六月二四日に四〇〇〇円を支払い、警友総合病院に対し、昭和六〇年一一月一一日に六六〇〇円、昭和六一年五月二一日に一万九七四〇円、同年六月一四日に三万七九〇〇円を支払つたことが認められ、右各治療費の合計九万五五二〇円は症状固定前の治療費であるから、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

(二)  慰謝料

前示のとおり、原告は、本件事故により受傷し、後遺症が残つたもので、弁論の全趣旨によると、右後遺症は自賠責後遺障害別等級表に該当する程度には至らないが、原告本人尋問の結果によると、原告は、県立高校の体育科の教員であるところ、その職務遂行に不便、不都合を生じていることが認められ、その他本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、原告が本件事故によつて受けた精神的苦痛を慰謝するには六〇万円の支払をもつてするのが相当である。

2  物的損害

(一)  車両損害

成立に争いのない甲第二四号証の一ないし三、第二五号証、乙第二号証の一ないし三、第八、第九号証、証人宮下正人の証言により真正に成立したものと認める甲第七号証の一ないし三、証人森嶋芳彦の証言により真正に成立したものと認める乙第一号証、証人宮下正人、同森嶋芳彦の各証言(後記いずれも措信しない部分を除く。)によると、本件事故により、被害車両は車体前後を破損し、フレームの後部は挫屈し、前部には若干のひづみが出たこと、一般自動車板金塗装を営業とするサンワボデーサービス有限会社(以下「サンワボデー」という。)は、被害車両の修理が可能であるとして修理費を一〇三万三九四〇円(レツカー代一万五〇〇〇円を含む)と見積り、ホンダベルノ横浜十日市場店は、サンワボデーの見積を修正し、同じく八六万九九四〇円と見積り、日動火災海上保険株式会社の技術アジヤスター森嶋芳彦は、被害車両は修理可能でその修理費の見積額は八五万四九四〇円である旨報告していること、右修理は、いずれもリアーフロアーの取り替えを含み、サンワボデーの見積では、五〇ケ所六四点の部品の取り替えと六ケ所の板金、ホンダベルノ横浜十日市場店の見積では、四八ケ所五八点の部品の取り替えと六ケ所の板金、森嶋芳彦の報告では四七ケ所五九点の部品の取り替えと六ケ所の板金を内容とするもので、右修理では、部品の取り付けに狂いは許されず、修理後に被害車両の走行に差し支えが生じる恐れはないことが認められる。

甲第二五号証中のホンダベルノ工場長の発言は、前掲各証拠に照らしてにわかに措信しがたい。

以上によると、被害車両は修理可能で、原告は、本件事故により、被害車両の修理代金及び修理後における事故による価格減少分を損害として請求することができるものと解される。

しかるところ、サンワボデーの見積とホンダベルノ横浜十日市場店の見積を対比すると、その違いは、サンワボデーがヘツドライトモーター交換部品代左右三万五〇〇〇円したのに対し、左一万七五〇〇円とし、ラジエーター交換部品代五万〇五〇〇円としたのに対し、これを必要なしとし、右フエンダー交換部品代二万八〇〇〇円、工賃二万円としたのに対し、これを必要なしとし、左右コーターガラス脱着工賃一万六〇〇〇円としたのに対し、左八〇〇〇円とし、ペイント工賃一三万六〇〇〇円としたのに対し、九万六〇〇〇円としたことにあるが、一件記録によつても、前示のサンワボデーが当初見積つた修理量を減少、減額するのを相当と認める証拠はないので、サンワボデーの見積金額一〇三万三九四〇円をもつて被害車両の相当修理代金と認める。

また、事故による価格減少分については、経験則上、修理代金の一五パーセントが相当額と認められ、被害車両については、一〇三万三九四〇円からレツカー代一万五〇〇〇円を控除した一〇一万八九四〇円の一五パーセントの一五万二八四一円をもつて価格減少による損害と認める。

証人森嶋芳彦の証言中には、被害車両には事故による価格落ちは発生しない旨の部分があるが、右証言は経験則に照らし、にわかに措信し難い。

(二)  事故処理に要した費用

被告本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第一二号証、同尋問結果及び弁論の全趣旨によると、原告は、ホンダベルノ横浜十日市場店に本件事故車の移動、保管並びに修理代金の見積を依頼し、その費用として、同店に合計五万七〇〇〇円を支払つたことが認められるところ、右支出は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

(三)  その他の損害

原告は、他に、被害車両取得に要した諸費用の損害、買替え車両の新規登録届出等に要した費用を本件事故により生じた損害として請求するのであるが、右損害は、被害車両が本件事故により全損したことを前提とするもので、これを認めることはできない。

3  弁護士費用

弁論の全趣旨によると、原告が本訴の提起、追行を原告訴訟代理人に委任し、相当額の費用を負担したものと認められるところ、本件事案の内容、認容額等諸般の事情を考慮すると、右弁護士費用は、二〇万円をもつて相当額と認める。

四  結論

よつて、原告の本訴請求は、被告鈴木勝久、被告会社に対し、各自二一三万九三〇一円の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、被告鈴木文夫に対する請求、被告鈴木勝久、被告会社に対するその余の請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 木下重康)

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